論理学FAQのブログ

授業でもらったコメントに対して書いたリプライを、ブログ形式に編集しました。

述語論理と様相論理、どっちを先に教えるか

きょうは、いつもとちがう形式です。せっかくツイッターで言及いただいたので。

たしか去年までは、命題論理→述語論理→様相論理 (→ 様相述語論理) という順序でやっていたんですが、どうも教えるときの自分のノリがイマイチだなということで、今年度から述語論理の前に様相論理を教えることにしました。学生の理解度が格段に違うとかはなく、自分としてはこちらのほうがしっくりくるという程度の違いですが、理由をかんたんに述べておきます。

まず、いま教えているクラスの出席者は文学部の学生が大半なので、命題論理の次に述語論理を導入する動機がどうもしっくりこないんですね。つまり、イプシロン・デルタ論法で苦しんできた学生ではないので、あれをきれいに書けるありがたみがわからないだろうということです。

では、命題論理の次に様相論理を導入する動機は何なのかというと、自分としては、いちおう次のように整理しています*1。命題論理に含意 (実質含意) という結合子があり、 以前に

takuro-logic.hatenablog.com

というエントリでも書いたように「含意は推論関係を一つの論理式で表すための記号である」と説明するわけですが、推論のもつ意味合いのすべてを表現できるわけではありません。すなわち、実質含意は、推論 (帰結関係) に含まれる「前提が真ならば結論も必ず真」という様相を表現することはできません。

ブランダムは、論理結合子とは、推論に含まれる論理的関係に対する暗黙のコミットメントを明示化する (命題として表現する) 表現なのだ、と言います。この考え方に基づけば、たしかに、含意は、推論に含まれるコミットメントの一部を明示化してはいるでしょう。でも、すべてが明示化されているわけではなく、「必ず」という様相が明示化されずに残っています。そこで、それを明示化するための記号としての様相演算子を導入しましょう、という筋書きです。

さて、様相演算子は、可能世界の上への量化によって定義されます。すなわち、様相へのコミットメントはじつは量化にかかわるものとして分析できる、ということがわかってきます。ここで述語論理の出番です。様相概念のさらにベースにある、量化にかかわるコミットメントを明示化する表現として、量化子を導入しましょうという風に進みます。

もちろん、命題論理のモデル論の時点ですでに、推論の必然性は「すべてのモデルで真理保存的」という仕方で、量化によって分析されてはいるのですが、問題は、そこでは、述語論理のもっとも大きな特徴である多重量化が表立って現れないということです。可能世界意味論では、様相演算子の重なりを扱う際に多重量化が出てきますから、そこからスムーズに繋げられるだろうという目論見です。別の言い方をすれば、イプシロン・デルタの代わりに、様相論理で多重量化で苦労してもらって、述語論理のありがたみをわかってもらいやすくする、ということですね。

 

*1:このとおりに学生さんに伝えるわけではなく、あくまで自分の中での整理です。学生さんにはほのめかすくらいですね。