論理学FAQのブログ

授業でもらったコメントに対して書いたリプライを、ブログ形式に編集しました。

"ロマン派"論理?"印象派”論理?

2019年5月20日のコメントペーパーより。レジュメは様相命題論理

コメント:"古典"論理と言いますが、いつの時代に体系化された分野なのでしょうか。芸術のように、"ロマン派"論理や"印象派"論理といったものがあるものなのでしょうか。

回答:意外にもというか、よくあることというか、古典論理自体は比較的新しい体系です。具体的には、G.フレーゲが1879年の『概念記法』において提示し、その後、ラッセルとホワイトヘッドの『プリンキピア・マテマティカ』(1910-1913)において完成を見た体系を、いまでは「古典論理」と呼んでいます。たかだか100年ほどの歴史です。

フレーゲラッセル以前、アリストテレスから始まって、ストア派や中世の論理学、ライプニッツやカント、さらにはヘーゲルの「論理学」、このあたりは「古典」ではなく「伝統的 (traditional) 論理学」と呼ばれます。フレーゲの意識としては、自分がやっているのはもちろん"古典"ではなく、むしろ伝統的論理学に対する"革新的"論理学だったでしょうね。

古典論理」という言葉自体は、フレーゲラッセルも使っておらず、使われ始めたのはどうも1920年代のようです(村上祐子さんのスライド参照)。自分ではちゃんと確認できていないので憶測ですが、フレーゲラッセルの論理がスタンダードとしての地位を確立し、同時に、それに収まらないオルタナティブな論理(とくに直観主義論理)の可能性が見えてきたのがその頃なのではないかと思います。そして、20世紀後半には「非古典論理」の著しい発展があったことはご承知のとおりです。

さて、古典論理と区別される"ロマン派"やら"印象派"やらがあるのかという話ですが、もちろん、様相論理・直観主義論理・線形論理・関連性論理などなど、いろいろな論理が古典論理とある意味で競い合っているわけですが、芸術と類比的に考えるなら、この論理のちがいはじつのところ、論理学者が生み出す「作品」、つまり論文や本のスタイルにはそれほど影響は与えないのではないかと思います。スタイルに影響を与えるのはむしろ、各々の研究者がどのような目的やアプローチで論理学をやっているかのちがいではないかと思います。いくつか例を挙げるなら、

  • 数学の理論 (算術や集合論など) の分析として
  • 論理自体の数学的興味深さ、美しさを求めて
  • 計算機科学の一部として
  • 形式的に扱える推論の範囲拡大を目指して (様相・時間etc.)
  • 哲学として 

といった目的・アプローチがあります。たとえ同じ古典論理を扱っていたとしても、こうした目的やアプローチが異なれば、論文の中身はまったく異なるものになります。「〇〇派」というのを考えるとすれば、このような分類に従うことになるのではないでしょうか。